ロジハイツの床面積は約87㎡。そのコンパクトな空間の中に1階は「テナント」2・3階は「単身者向けの賃貸住宅」、それと屋上には「シェア菜園」と多彩な要素がぎゅっとつまった建物である。大家は荒川区出身で荒川区愛が溢れている戸田さんだ。戸田さんはロジハイツ以外にもトダビューハイツの大屋でもあり、デザイナーであり、イラストレーター。デザイナー大家として活躍している。敷地は東京都荒川区の木造密集地域にあり、間口約5m、奥行き約10mの長方形で三方とも隣地に囲まれている。西側には3階建ての住居、東側には2階建ての空き家、道路を挟んだ南側には町工場が建っている。南側の前面道路は、幅4m未満の2項道路で今回の計画にあたり、道路境界線は30cm弱セットバックした。また、敷地は地盤補強が必要で、前面道路が狭く敷地が広くないことから使える重機も限られることから、細い鋼管を複数貫入して補強するRES-P工法を採用した。

ロジハイツのプロジェクトは一風変わっている。プロジェクト自体は、元々木造2階建ての住宅があり、しばらく更地であった場所に賃貸物件を建てるというものだが、kakinokiに相談に来る前に戸田さんは色々な試みをしている。更地に人工芝と木柵を建て、マルシェ、ワークショップ、トークイベント、お散歩イベントなどを行い、これからたてる建物のコンセプトを練るという「想像建築」というもの。そんな戸田さんが試行錯誤の後生まれたコンセプトを携え、kakinokiに依頼をしてくれた。

店舗の入口は大きなアーチとなっていてこの建物の特徴となっている。周辺の昭和テイストな建物によくあるアーチ型に着想を得て、安心感のある柔らかいデザインになるようこのようなファサードを提案した。外壁の色は町に馴染む色を意識して決めた。戸田さんと町を歩き、色見本と外壁サンプルを持参し見比べながら検討した。屋外照明もtoolboxのショールームに一緒に行き、決めたもの。どこかレトロで安心できる灯りのデザイン。また、鳥のモチーフが可愛らしい看板は戸田さんのデザインだ。ファサードの半分を担う鉄骨の屋外階段はシンプルながらボルトが出ないなど綺麗に見えるように配慮して設計し、職人さんにも頑張って頂いた。柔らかいデザインイメージのため、手すりは丸棒を主に用い、どこか懐かしいデザインを目指した。

戸田さんの考えるメインコンセプトは「町に長く住みたくなる賃貸住宅」。荒川区という町への魅力は人への愛着であると感じた事から、人の交流が生まれる場と安心感のあるデザインを希望していた。交流が生まれる場として機能する屋上シェア菜園はTさん自身が運営している。名前は「ロジガーデン」。会員制のレンタル菜園であり、定期的なレクチャーや利用者同士の交流が行われている。

設計段階からプランターの数などを想定して進めた。隣地側三方の高さ約1.2mの手すり壁は、隣との視界を遮ったり、葉や砂などを飛び越えにくくしている。道路側の手すりは縦桟の鉄骨製として、視界の抜けを意識し、程よく開放感が生まれるようにしている。屋上床の防水材料は不燃性能があり、紫外線の劣化が少なく、地震の揺れによる亀裂もしにくく、人の歩行にも対応している金属防水を採用している。

菜園のレクチャーの日にお邪魔させて頂いた。人も野菜もイキイキとしていて、それが街の風景と重なり、とても良い時間が流れていた。素敵なプロジェクトに力添えできた事を嬉しく思った。

交流が生まれる場としてもう一つ、1階はテナントとした。現在は、喫茶店が入り（店舗設計はkakinokiではない）ご近所の方をはじめ賑わっている。シェア菜園の方々も野菜の手入れの際に皆で利用しているようだ。

賃貸住居部分は約23㎡。室内のアーチ開口も外観デザインを踏襲した。水回りはアーチの開口の奥にまとめ、収納はウォークインクロゼットを計画し、メインの居住スペースの寝室がスッキリ見えるようになっている。

玄関空間は広くとり（戸田さんはこの玄関空間に土間とうい名前をつけてくれた）、自転車を置いたり、仕事スペースにしたり、居住者にとって自由度のある空間となっている。木造密集地域にありながら、南側の土間に設けたサッシから入る陽の光で部屋全体が明るくなっている。また北側のキッチンの窓を開けると南北に風が抜け気持ちが良い。

随所に愛が感じられる戸田さんの思いのつまったロジハイツが、人々の交流にも一役買っていく様子を今後も見ていきたい。
 
ロジハイツの情報は戸田さん制作の素敵なウェブからも是非どうぞ→ click