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寺子屋のある家
 

寺子屋のある家
 

新築
2世帯住宅(基準法上長屋)+学習塾
設計監理:一級建築士事務所KAKINOKI
施工会社:かしの木建設株式会社
構造設計:ハシゴアーキテクツ一級建築士事務所
設備設計:一級建築士事務所shiba.建築設計事務所
植栽設計:若竹吉田建築設計事務所
キッチン:今井哲朗デザイン事務所合同会社
延床面積:189.91㎡(57.45坪)
敷地面積:101.7㎡(30.76坪)
構造規模:木造 3階建て
所在地 :東京都文京区
家族構成:夫婦+夫の母
設計期間:12ヶ月
工事期間:10ヶ月
竣工年月:2022年5月

「寺子屋のある家」はクライアントKさん自らが教える学習塾のある2世帯の住宅だ。Kさんの実家を建て替えた。建物の1階はKさんのお母様の住まい、2階はKさん夫妻の住まい、3階は学習塾、その上に生徒さんも使う屋上、という構成だ。敷地は南西と南東が道路に接する角地で、その角は周囲からよく見える場所に位置する。打合せの時からKさんは自分の家のためだけの緑ではなく、周りに提供できる緑を希望していた為、このよく見える角に庭を配置する計画とした。

「低めの石塀」と「程よく視界を遮るフェイジョアの生垣」は道路との境界を緩やかに分けている。石垣はKさん夫妻の好きな沖縄から着想を得て、現地から直送された琉球石灰岩の石積みとした。植栽はKさんと農園に一緒に行きフェイジョアの他、蝋梅、ヤマボウシ、ユーカリポポラスなどの選定を行い、旧宅にあったモミジ、サルスベリ、ツバキは移植した。その他にも、ウキツリボク、ヤマアジサイ、メギ、ウエストリンギアなどを植え、四季を通じて花が楽しめるようになっている。これら庭の設計はランドスケープデザインも得意とする若竹吉田建築設計事務所と共に行った。

その庭と建物の間を通り、大きなガラス引き戸のある1階の玄関へとつながる。1階は「お母様の住まい」と「約10畳の和室」がある。この和室は親族の集まり、お母様の友人たち集まりにも使用されていて、大きめの玄関から直接和室に入ることができる。ちょっとした話であれば、玄関の踏み板に腰掛け、庭を眺めたりもでき、縁側のような雰囲気でもある。

和室の掘りごたつは銀杏の一枚板だ。施工をお願いしたかしの木建設さんの工場に、お抱えの無垢の板があり、Kさん夫婦と一緒に色々見せていただいて選んだものだ。

お母さまの住まいは、ワンルームとし、コンパクトで使いやすい間取りとした。窓からは庭の景色も楽しめる。和室に人が集まっていても、ほっとできるように和室との間には廊下を挟んでいる。

2階と3階へのアプローチは屋外階段からとなる。道路からの入口は旧宅から数寄屋門を移設した。学習塾への入り口でもあり、落ち着いた外観や寺子屋の雰囲気とも合っている。以前の家のものを少しでも残せた事がとても嬉しい。

2階は、Kさん夫妻のシンプルでコンパクトな住まいだ。約52㎡(約15.7坪)の中に、お二人の希望されている広さがとれるように、工夫した。廊下を設けずに部屋と部屋をつなぐ空間構成とする事で、個々の部屋の広さを最大限に確保している。

奥様は三線を弾きながら歌う琉球古典音楽をやっている。料理の合間でも稽古を行うということで、キッチンの隣に稽古場を配置した。演奏は床に直に正座するので、座った目線の高さに開口部を設け、借景の緑を眺められるようにした。稽古場は約3畳の省スペースであるが、開口部により空間の広がりが感じられる。稽古にも集中できると言う。

キッチンとつながるリビングは琉球畳6畳ほどの小上がりとなっている。仕事、くつろぎ、食事などいろいろ用途の場となる。

外からの視線を気にするより、中の開放性を優先したいというKさん。角地の交差点に向けた大きめの木製サッシは視線の抜けをもたらしコンパクトな住まいに奥行きを与えている。キッチンに立った時も視線は外へと抜ける。室内とつながりを意識したウッドデッキバルコニーに椅子を並べ、毎夕、風呂上がりのビールを楽しんでいるそうだ。

そして3階は、Kさんご自身で教える学習塾のフロアだ。扉を開けると、入った時のワクワク感を大事にしたいというKさんの思いを形にしたホワイエがある。天井高さ4.5m。壁一面の本棚。ワイワイ集まれるキッチン。様々なところでくつろげる段差やソファのある空間とした。

当初からだだ勉強を教える場所ではなく、楽しみながら自分を鍛える居場所にしたいと言っていたKさん。気軽に生徒さんに使ってもらえるように、ギター、三線、ウクレレ、エレキが置いてあったり、料理、植物を育てる、などのプログラムもある。自由な使い方ができるソファはFUJITAKE WORKSさんに製作してもらった。ソファ上のFIX窓からは借景の緑や街を行き交う人の様子がうかがえ、楽しい風景を生み出している。

入口ドアのハンドルも入る時のワクワク感を演出する棟梁製作の木組みのものとした。外側は追掛大栓継、内側は金輪継という木組みの名称。塾の生徒さん達に、職人さんの技を感じらるものをデザインできた。

ホワイエの隣には、教室がある。プログラムの中に発表の機会もある為、教室の一部を時には舞台としても利用できるように、杉で大きな木枠を作った。後日、教室が使われている時にお邪魔した所、想像以上に自由に生徒さんが利用しており、大変嬉しい気持ちになった。

竣工後には、Kさんからこんなお言葉を頂いた。
 
「家を建てる」という二年にわたる経験は60歳になる私の人生においてとても大きな、かけがいのない、感謝と喜びに満ちたものになりました。大勢の方々の知識、経験、技術、アイデアが詰まったこの建物は私どもにとって、唯一無二の工芸品、芸術品のような意味を持っています。大事に暮らしていこうと思います。
 
今も時々メールをいただく。お庭の咲いた花の様子や学習塾の様子など、Kさんが思い描いていた風景が現実となっている。

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